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今年(2002)読んだ数学関連書


松澤淳一, 特異点とルート系, 数学の風景6, 朝倉書店, 2002.

クライン型の特異点を軸に、

を解説している。最後に著者が述べているように、専門家を相手にした小数の専門書以外に類書はない。もちろん(?)

和書では類書は皆無

である。その意味でこの本の意義は大きい。しかし正直言ってこのページ数では欲張りすぎたと思う。 証明のついていない定理が多数あるのはもちろんのこと、しばしば基本的な定義がなされていず、適切な参照もされていないように感じた。 また、しようのないこととは思うが、記号の統一性に欠け、同じ文字が近接して全く別の意味に用いられたり、逆に同じ文字であるべきはずのものが違う文字に置き換わったりしていたりで、読むのに苦労した。ミスプリントも含め、重版時に改善を望みたい。

もっとも西山自身は、おもしろく読みました。知らないこともたくさんあって、勉強もさせていただきました。 点数が辛いのは、初心者向であるにも関わらず、初心者への配慮が足りないせいです。コレハ、ムツカシイケド (^^;;;

[Thu May 23 11:10:21 JST 2002]

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谷崎俊之, リー代数と量子群, 現代数学の潮流, 共立出版, 2002.

リー代数、とくに Kac-Moody 代数への入門書(あるいは教科書)。 Kac-Moody 代数は生成元と Cartan 行列から決まる関係式で定義されたリー代数だが、 本書では生成元と関係式から出発して、その特殊な場合である有限次元単純 Lie 代数の分類や実現、表現について述べたあと、 (無限次元の)アフィン・リー代数に対して理論を拡張する。 さらにそのあと、Kac-Moody 代数の量子変形としての量子群について述べてある。

ほとんどすべての命題、定理には証明が与えてあり、定義もいい加減ではなく、しっかり与えてある。 また論理的厳密さを失わないように細心の注意が払われており、好感が持てる。 教科書として使うときには、このような、ある種の厳格さが求められるが、それを達成している数学書は多くない。 しかし、時にはあまりにも淡々とした記述に味気なさのようなものも感じる。 もっとも、このような味気なさは、よい教科書であるための代償とも言えるかも知れない。

本書の特徴は、初めから Kac-Moody 代数を扱っている点にあり、その特殊なものとして有限次元の単純リー代数を考察している。 これは記述の簡略化、論理的な構造を見通しよくすることに効果をあげており、著者ならではの工夫といえるだろう。 実際、最近の研究では無限次元の Kac-Moody 代数をあつかうことがほとんどで、 このようなアプローチの仕方は、学習者にとっても専門的な研究に馴染みやすいという利点がある。

巻末の付録 B では発展的な話題が例を多用して紹介されており、この部分も本書の教科書としての価値を高めている。 全体として、論理的厳密さとページ数の枠のなかで、基礎と発展的話題のバランスをとろうとした著者の意欲と工夫を感じる。

[Tue May 7 13:54:33 JST 2002]

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Igor R. Schafarevich, Basic Algebraic Geometry 1, 2, Springer-Verlag 1994.

文句なしにおもしろい。名著です。 特に第一巻 (Book 1) が非常に面白かったですね。

構成は、第一巻が Book 1 で、第二巻が Book 2-3、

となっていて、Hartshorne の本などと比べると、かなり記述の仕方は古典的色彩が強いです。 Book 1 だけでも十分だと思うし、さらに代数幾何を専門にしたければ、そのあと Hartshorne を読むのが正解かも知れません。 一方、ある程度代数幾何の素養があれば、Book 3 だけでも十分に楽しめます。

この本では、道具としての代数幾何学よりも、動機とか、概念の理解に重点が置かれています。 いろいろな例が豊富にあげてあり、特に Book 1 ではほとんどの定理にきちんとした証明がついていて、 証明の仕方も技巧的ではなく正統派で理解しやすかったです。 主要な定理で証明がついてなかったのは Riemann-Roch の定理ですが、これはちょっと意外かな。 もっとも Riemann の不等式の方は証明されています。
西山にとって新鮮だったのは、有理関数の未定義点の扱い方(例外多様体など)や、 代数的な族やファイバーの話(次元定理の応用やBertini の定理)で、楽しめました。 この部分は Harris の Algebraic Geometry との類似性が高いように感じます。

著者の究極の目標は、たぶん、最終章の uniformization なんだろうと思います。そのために Book 1-2 を用意したのでしょう。 後半は複素解析的色彩が強く、しかし、前半では完全に代数的な扱いしかなされていないので、途中で少し違和感を覚えます。 その意味では、Mumford の projective variety の本の方が両者がよく融合していて違和感なく読めます。こちらも名著ですね。

ちなみに第一巻にはあまりミスプリがありませんが、第二巻は比較的多いです。

[Fri Apr 12 12:07:34 JST 2002]

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西野哲朗, 量子コンピュータと量子暗号, 岩波講座物理の世界, 物理と情報4, 岩波書店

量子コンピュータの理論的基礎を、細かいところは気にせずに、おおざっぱに理解することに力点をおいて書かれた啓蒙書。 作動原理や、量子ビットとは何か、そしていったいなぜ量子コンピュータが実現もされていないのに注目を浴びるのかなどの話題について、人と世間話する程度の知識は身に着くだろう。ただし、量子コンピュータの実装(あるいは実現)についてはほとんど触れられていない。もっとも、実装については今現在研究者たちがしのぎを削っている最中で、しかもあまり有効な実装法が発見されていないようだから、これを省略するのは致し方あるまい。

量子コンピュータを用いた因数分解アルゴリズムも解説されているが、そこで使われている初等整数論や、有限巡回群の Fourier 変換( Fourier 級数)についてはほとんど省略されている。本書で必要な数学は非常に限られており、しかも簡単なので、ちゃんと(証明つきで)説明してもあと 4, 5 ページもあれば解説できる。しかし、本書ではきちんとした statement さえもがしばしば省略されている。これは非常に残念である。

また、ユニタリ変換についても単に有限次元のユニタリ行列に過ぎず、線型代数の基礎的な知識があれば簡単に理解できよう。しかし、この部分でも理論的な説明不足を強く感じた。これはあくまでも数学的説明を避けようとした(誤った)判断に原因があるように思われる。

結果として本書は、「入門書」ではなく、「啓蒙書」の域を出ないものになってしまった。

それにしても、この講座の総冊数は 84冊である。一冊が薄いとはいえ、物理学のすそ野の広さには驚くばかりである。数学関係のシリーズ「物の理・数の理」も5冊が刊行予定となっている。

[Mon Apr 8 11:27:33 JST 2002]

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黒川信重/若山正人, 絶対カシミール元, 岩波書店

絶対数学への初めての入門書(らしい)。 しかし、あらかじめ、普通の数学にかなり親しんでいないと本書を読むのは難しそうだ。 基本的な定義は省略されがちだし、 重要と思える定理の証明も省略されている部分がおおい。 とくに第5章、第6章あたりの定理群の穴をうめながら、初心者がこの本を読むことは、不可能にちかいように思える。 それに比して第4章あたりまでは比較的ていねいに書かれているように感じた。

[Fri Mar 22 14:47:46 JST 2002]

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