Last Update :

今年(2001)読んだ数学関連書


Jean-Pierre Serre (translated by C.-W. Chin), Local algebra, SMM, Springer, 2000. [院・専門★★★★]

フランス語原版が1965年、Springer Lecture Notes in Math. 11 として出版されたそうだから、すでに36年が経つ。 原版が出たときは私は小学2年生だったことになる。 しかし、今回英訳されて、装いも新たに、増補改訂などもなされているが、 その本質的な部分は変っていないように思われる。 多分この本の執筆の動機は(前書きにも書いてあるように)、 体論・環論ではなくむしろ加群に重きをおいた展開を試みることと、 何よりも代数的サイクルの重複度を加群のコホモロジーを用いて定義することだろう。 当時、それは先進的、かつ斬新なアイデアだったに違いない。

この本が古典となった現在、 当時の斬新なアイデアが intersection theory の礎となっていることを目の当たりにして、 今更のように Serre の目の確かなことに驚き、かつ感心せざるを得ない。 古典とはまこと、このような本のことを言うのだろう。

とはいうものの、加群の随伴多様体や、あるいは重複度、Cohen-Macaulay 加群の理論などについてこれほど詳しくしかもスマートに書かれている本は今でもあまり見当たらない。 一番最初は中山の補題(なんと証明はたったの3行だ!)から書かれているから、ほとんど予備知識なしに読めるだろう。 特に前半は、加群の理論に重きをおいた可換環論の絶好の教科書として、学生のセミナーなどにも最適である。 もっとも証明とか記述は大変凝縮されて、簡潔に書かれているので、しばしば悩まなければならないだろうが、 それも学生時代には良い演習である。

このような丁寧な翻訳をしてくれた翻訳者もよい仕事をしたと思う。感謝したい。

[Sun Nov 11 14:45:12 JST 2001]

読書記録に戻る


荒川恒男・伊吹山知義・金子昌信、ベルヌーイ数とゼータ関数、牧野書店. [大学★★★★]

力作です。 読み始めは快調だったんですが、二次体の整数論のあたりから急ブレーキが掛って、最後の方は青息 吐息でした。ナサケナイ (^^;;
二次体の整数論の部分は、ちょっとダイジェスト的なところもあるし、 予備知識がないと少し苦しいかも知れません。 でもここを飛ばして読んでも十分楽しめます。

背後にある数論的対象の解説(例えば保型形式)をもう少し書いておいてくれると良かったなぁ、というのが無 理な注文ですが、全体的に楽しく読めました。 特に計算のテクニックとか、母関数の使用法などは鍛えられます。 実践的な入門書といえるかも知れません。

ベルヌーイ数をはじめ、ゼータの特殊値、スターリング数などの面白い 公式が満載されています。今回初めて出会うようなものも多く(単に私が無知なだけ?)、それぞ れに美しく、楽しいひとときを過ごしました。個人的に一番印象的だったのはクラ ウゼン=フォンシュタウトの定理でした。

随所に数学者の評伝もあって、なかなかよく書けています。

金子さんの 神戸大学の集中講義録

金子昌信、「楕円モジュラー函数 $ j(\tau) $ のフーリエ係数」、Rokko Lectures in Mathematics 10.
も出たようで、こちらも面白そうです。

読書記録に戻る


ロバート・カニーゲル(田中靖夫訳)、無限の天才 - 夭折の数学者・ラマヌジャン -、工作社

かなり綿密な調査と、かなり突っ込んだ見方でラマヌジャンとハーディーの生き方と数学に迫っています。 大変面白く読んだんだけど、 ちょっと数学的には問題ありな表現が随所に見られることが残念(たとえばゼータの零点のところ) 。 でも、ま、しようがないか。

以下、怒涛のいちゃもん。 日本語の訳語も数学者が普通使っている用語と違うものがいくつかある。 それに調査が綿密な分だけいろいろと書かれていて、直接的には不要と思われる部分も多い。 もっと短くした方が引き締まって良いように感じた。 最後のいちゃもんとして、タイトルにハーディーが全然出てこないのは内容からしておかしいと思う。だいたい H : R = 2 : 3 くらいの扱いかな?

でもなにしろ西山は、ハーディーがインドには一度も行かなかったことを、この本でやっと知りました。 だからどうしたって訳ではないのだけど。
[Mon Oct 15 15:51:58 JST 2001]

読書記録に戻る


上野健爾/志賀浩二/砂田利一, 現代数学の展望, 日本評論社

玉石混淆。
とにかく中島啓さんの論説はおすすめ。 雑誌での発表時には恥ずかしながら読んでませんでした。
[Mon Oct 15 15:44:19 JST 2001]

読書記録に戻る


A. N. Parshin and I.R. Shafarevich (Eds.), Algebraic Geometry IV, Encyclopaedia of Math. Sciences 55, Springer-Verlag.

内容は代数群の作用と不変式論で、代数群の方は T. A. Springer が、不変式論の方は V. L. Popov と E. B. Vinberg の共著。Springer のものは Progress in Math. のものの縮小セットなので、参照するにしても読むにしてもそっちを読む方が良い。なんでわざわざこんなものを収録する必要があるのかよくわからない。というわけで、不変式論の方だけが読む価値がある。(でもわざわざ Springer にも目を通してしまった私は、間抜け。)

Popov-Vinberg の論説は不変式論に興味がある人だったら、是非一読を進める。 最初の導入部だけでも読む価値は十分ある。 この導入部では、不変式論が何を目指してきたかについて、豊富な例をあげながら、しかもほとんど証明つきで(!)簡潔に説明されている。 注意深く読めば、実際の問題への応用やヒントもきっと得られるだろう。 さすがに、この導入部で解説されている内容は Mumford 以前ではあるけれど、 感銘を受けるに十分である。

本文の方はだいたいにおいて Hilbert - Mumford - Luna, Vust という大きな流れで解説されているように見える。Weyl はほとんど無視されているが、最後の第9章では現代的な視点から Weyl の仕事が解説されている(そしてこれが最終章。しかしまぁこの章は付録としてみた方が良いように思われる)。 最新の不変式論との関係で言えば、まずこの論説が書かれたのが 1989 年のことで、その後の10数年の間の不変式論の進歩(主に Knop, Brion, Luna, Vust たちによる)は目覚ましいものがあるから、この論説に書かれている内容はもはや古典的と言ってよい。 さらに、代数幾何学で中心的な話題となっている、Mumford - Gieseker をはじめとするベクトル束のモヂュライ理論などには全く触れられていない。

しかし、それでもなお、例えば概均質ベクトル空間についてさえ木村さんの本が一冊しかない状況を考えると、この論説の内容は貴重である。恥ずかしながら、この論説によって初めて知った事実も数多い。 ほとんどの定理群には証明か、証明のための戦略が説明されている。また、誤植は数えるほどで、翻訳も(少し見慣れない単語が使われていることをのぞけば)しっかりしているようだ。
[Tue Sep 25 12:29:18 JST 2001]

読書記録に戻る


読書記録に戻る 西山享のホームページに戻る

Last Update :