時間遅れと数理セミナー

第1回

  • 日時:2020年11月30日(月)16:30〜
  • 場所:Zoomミーティング
  • 講演者:池田幸太氏(明治大学総合数理学部)
  • 題目:時間遅れ項を伴うあるFokker-Planck方程式に現れるパルス解の周期運動の数理解析

第2回

  • 日時:2021年1月25日(月)16:30〜
  • 場所:Zoomミーティング
  • 講演者:高安亮紀氏(筑波大学システム情報系)
  • 題目:遅延微分方程式に対する精度保証付き数値計算ー現状と課題ー

第3回

  • 日時:2021年3月25日(木)15:30〜
  • 場所:Zoomミーティング
  • 講演者:西口純矢氏(東北大学材料科学高等研究所)
  • 題目:パラメータとしての時間遅れ
  • 概要:時間遅れ系は時間遅れの構造を系に陽的に与えることで得られるとともに,系における有限伝播性により時間遅れの構造が陰的に内在することで得られることもある.エルニーニョ・南方振動に対する遅延振動子モデルは後者の興味深い例として考えられる. このように,時間遅れ系はさまざまな現象の数理モデルとして用いられうるが,その多くは導出されたものではなく天下り的に与えられたものである.したがって,その数理モデルとしての妥当性を無限次元ダイナミクスの理解により考察することが求められる. この講演では,上記の考察を「パラメータとしての時間遅れ」という観点で行うことを提案し,関連する以下の3つのトピックについて解説を行う:(i) 1つの定数遅れを持つシステムの線型安定性,(ii) 状態依存遅れを持つ方程式の Hans-Otto Walther による取り扱い,(iii) 時間遅れパラメータに関する解の滑らか依存性.

第4回

  • 日時:2021年5月31日(月)16:30〜
  • 場所:Zoomミーティング
  • 講演者:矢ヶ崎一幸氏(京都大学大学院情報学研究科)
  • 題目:Existence of finite time blow-up solutions in a normal form of the subcritical Hopf bifurcation with time-delayed feedback for small initial functions
  • 概要:We study a normal form of the subcritical Hopf bifurcation subjected to time-delayed feedback. An unstable periodic orbit is born at the bifurcation in the normal form without the delay and it can be stabilized by the time-delayed feedback. We show that there exist finite time blow-up solutions for small initial functions, near the bifurcation point when the feedback gains are small. This can happen even if the origin is stable or the unstable periodic orbit of the normal form is stabilized by the delay feedback. We give numerical examples to illustrate the theoretical result. The details of these results are given in the following paper with the same title:
    • K. Yagasaki, Discrete Contin. Dyn. Syst. Ser. B, in press.

第5回

  • 日時:2022年3月25日(金)17:30〜
  • 場所:Zoomミーティング
  • 講演者:田中吉太郎氏(公立はこだて未来大学システム情報科学部)
  • 題目:Belousov-Zhabotinsky反応によるレザバー計算の数理モデリング
  • 概要:機械学習の手法としてよく知られるニューラルネットワークの枠組みの一つにレザバー計算という手法がある.レザバー計算は,中間層であるレザバーに物理現象を用いることができるという特徴があり,そのようなレザバー計算は物理レザバー計算と呼ばれている.しかし物理レザバー計算は現状実装例が少なく,研究が発展途上であるという現状がある.そこで本研究では物理レザバー計算の新たな試みとして,酸化還元状態が周期的に変化するBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応と呼ばれる化学反応を駆動力とする物理レザバー計算を提案する.BZ反応は化学反応であるが,時空間パターンの波紋の移動を物理現象と見なし,物理レザバー計算を行なう.BZ反応を用いた物理レザバー計算が理論上可能かどうかを検証するために,反応拡散系の反応項にBZ反応のモデル式を導入した式を用いて数値シミュレーションを行なった.その結果,周期的な時系列や,遅延微分方程式であるMackey–Glass方程式の解のカオス的挙動が理論上,有限時刻まで予測可能であることを明らかにした. 本研究は,公立はこだて未来大学の豊田 和人氏,香取 勇一氏,櫻沢 繁氏,高木 清二氏との共同研究である.

第6回

  • 日時:2022年6月13日(月)16:30〜
  • 場所:Zoomミーティング
  • 講演者:細江陽平氏(京都大学大学院工学研究科)
  • 題目:確率制御理論とランダムな通信遅延をもつネットワーク化制御システム
  • 概要:現実的制約により確定的なモデルで表現しきることが困難であるような対象や現象は数多く存在する.そのような対象や現象に対して何らかの洞察を得ようとするとき,確率論的ないし統計学的な解釈がなされることがある.天気予報の降水確率などはその一例である.そのようなランダム性に関する情報を活用することができればよりよい自動制御を達成できるのでは,という期待のもと,講演者は内部状態の遷移の仕方がランダムにしか定まらない離散時間系の制御に関する理論的および応用的研究に取り組んでいる.確率制御理論の重要なアプリケーションの1つに,ネットワークを介して制御対象と制御器を接続したネットワーク化制御システム(NCS)の安定化問題がある.ネットワークにインターネットを用いると,通信遅延は時々刻々とランダムに変動する.そのため,NCSの動特性も一般にランダムになる.本講演では,講演者が提案する確率制御の枠組みについて概観したのち,NCSに対してどのような制御が実現できるかについて述べる.

第7回

  • 日時:2023年6月14日(水)13:00〜17:40
  • 場所:青山学院大学青山キャンパス
  • 13:20〜14:50
  • 講演者:小松弘和氏(豊田工業高等専門学校)
  • 題目:時間遅れを考慮した化学反応ネットワーク理論
  • 概要:化学反応ネットワーク(CRNs)のダイナミクスを理論的に解析する手法として,Feinbergらが構築した「化学反応ネットワーク理論(CRNT)」がある.この理論は,CRNsのダイナミクスを記述する常微分方程式(ODEs)に対して,ネットワークの幾何学的な構造にのみ基づき,正値平衡点の存在性や漸近安定性,Persistence,周期解の存在性など,解の定性的な性質を解明する手段を提供する.
     しかし,化学反応は,複数の素反応を経由する多段階反応で構成されている.そのため,反応物の分解から最終的な生成物が生成されるまでに時間遅れが存在すると考えられる.このような場合,時間遅れを考慮したCRNsのダイナミクスは,ODEsでなく,遅れ型の常微分方程式(DDEs)によって記述される方が適切である.最近,時間遅れを考慮したCRNsのダイナミクスを統一的に表現するDDEモデルが,Liptakらによって提案され, 時間遅れを伴うCRNsのクラスへCRNTの拡張を目指した研究が,数学者や制御工学者らによって行われている.
     本講演では, 時間遅れを考慮したCRNsへCRNTの拡張を目指し推進した,講演者の研究成果の一部を紹介する.具体的には,まず,時間遅れを伴うCRNsのDDEsを紹介しする.また,DDEsの解が,CRN固有の性質を有することについて述べる.次に,Deficiency Zero Theorem (DZT)と呼ばれるCRNTで基本的かつ重要な結果に焦点を当てる.この定理は,CRNがdeficiency と呼ばれる非負の指標が零でweakly reversible (各連結成分が強連結)であれば,そのODEが局所漸近安定な正値平衡点をもつことを保証する.このDZTについて,時間遅れを伴う場合へ拡張した講演者の成果を概説する.さらに,DZTで存在の示された正値平衡点が,大域的にも漸近安定性を保証する条件についても述べる.最後に,講演者が現在取り組んでいる時間遅れを考慮したCRNTに関する問題について紹介し,議論を行いたい.
  • 15:20〜16:50
  • 講演者:西口純矢氏(東北大学材料科学高等研究所)
  • 題目:遅延微分方程式に対する「軟解」概念と定数変化法公式
  • 概要:常微分方程式 (ODE) に対する定数変化法とその公式は,ODE の平衡点近傍でのダイナミクスを解析するための基本的なツールである.そのような公式が遅延微分方程式 (DDE) に対しても成り立つと考えることは自然であるが,DDE に対する定数変化法公式には概念的困難さのあることが知られている.この講演では,DDE に対して,不連続な履歴関数を初期条件に持つような「軟解」概念を導入することでその定数変化法公式を議論する.
世話人
  • 池田幸太(明治大学)
  • 石渡哲哉(芝浦工業大学)
  • 井元佑介(京都大学)
  • 高安亮紀(筑波大学)
  • 中田行彦(青山学院大学)
  • 西口純矢(東北大学)